中国・武漢を震源地とする新型コロナウィルスの感染が世界中に拡散し、戦後、世界が経験したことのない公衆衛生上の危機に直面しています。
このコロナショックにより、世界では、学校の臨時休校、イベント開催の自粛、外出制限・都市封鎖、株価の乱高下、原油価格の下落など、様々なことが起こっており、大規模な経済対策を打ち出す国が出てきています。
日々、刻々と状況が変化しておりますため、2020年3月26日時点の状況をもとに、今世界で何が起こっているのか、そして日本の不動産ビジネスにどういった影響が生じるのかなどを整理してみたいと思います。
正式に東京オリンピックの延期が発表されました。様々な利害関係が絡み合うオリンピックが延期されるのは史上初で、その影響は計り知れません。
前回のコラムで触れた オリンピック選手村跡地の分譲マンション「晴海フラッグ」
中国での生産に依存していた建築資材や住宅設備機器(トイレ、システムキッチン、ユニットバス、ドア等)の納品がされず、建築工事やリフォーム工事が遅延する事態が発生しています。
これは、中国の工場の操業停止が原因です。
建築・住宅業界では、予定通り工事を完了させることが出来ないという影響が出ており、このため、国土交通省からは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により欠品が発生した住設機器が未設置となっている物件においては、検査済証の交付及び行政の完了検査について、特定行政庁、指定検査機関に対し、トイレ等が未設置の状態でも検査済証を交付できる旨の通知がなされている状況です。
2012年以降、急増していた訪日外国人客数ですが、2020年2月以降激減しており、インバウンド需要を見込んだ宿泊施設はキャンセルが相次ぎ、売り上げが大きく減少しています。
オリンピック需要を見込んで開業した民泊施設では、3月の宿泊が大幅減という話も聞こえてきています。
既に破綻した旅館が出ており、更に、東京オリンピックの延期が追い討ちをかけることになるため、今後、ホテル、旅館の破綻や民泊施設の撤退が増えるかもしれません。
飲食店の中でも、特に居酒屋などのお酒を提供する店舗では、宴会のキャンセルが相次ぐなど、大幅な売上減少となっているケースが多数出てきています。
このままですと、閉店する飲食店が相次ぐ恐れがあります。閉店する前に、店舗経営者が店舗の賃料を減額するよう不動産オーナーに対して交渉する動きが頻発することが予想されます。
また、全国の百貨店の3月売上高が前年比4割減と過去最高の落ち込みとなる可能性があることを日本百貨店協会が発表しました。(3月17日時点の実績で推計)
これは、リーマンショック後や、東日本大震災直後を遥かに上回る落ち込み幅です。
訪日外国人の免税売上高においては、約8割減になる見通しを明らかにしています。
出典:内閣府ホームページ(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/keizaieikyou/03/shiryo_04.pdf)
NTTグループ、トヨタ自動車などを始めとして、テレワークを導入および実施している企業が急増しています。
パーソル総合研究所が発表した新型コロナによるテレワークへの影響についての全国2万人規模の緊急調査結果によれば、正社員の13.2%(推計360万人)がテレワークを実施しているとのことです。
テレワークを希望しているが、できていない人は33.7%。
テレワークが命令・推奨されている割合は、東京圏32.7%、名古屋圏17.4%、大阪圏20.2%です。
テレワーク導入を推進するための助成金も実施されているため、今後、テレワークを導入する企業は大幅に増加することが予想されます。
出典:パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(https://rc.persol-group.co.jp/news/202003230001.html)
今回のコロナショックを契機に、一気にテレワーク導入・実施が加速することにより、今後、企業のオフィスのあり方や、オフィス賃貸需要にも影響が出てくることが考えられます。
世界中の株価は乱高下していますが、不動産の関連ですと、東証REIT指数も激しく乱高下しています。
コロナショックが起こってから、年初来で一時47%も下落しました。3月19日には1日で18.5%の暴落となりましたが、23日は13.8%高、24日は12.8%高と、連日の急反発を見せています。
今後も激しい値動きをすることが予想されます。
参考サイト:東京証券取引所 株価指数ヒストリカルグラフ ―東証REIT指数― 日足チャート
(株)帝国データバンク(TDB)が3月6日に発表した「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(調査対象は2万3,668社、有効回答は1万704社。調査期間は2月14~29日。)では、「マイナスの影響がある」と見込むは企業(63.4%)で、業界別にみると、「運輸・倉庫」が72.8%と最も高く、さらに「卸売」(72.5%)、「小売」(66.9%)が続き、「不動産」は55.2%でした。
不動産については、「すでにマイナスの影響がある」が20.4%、「今後マイナスの影響がある」が34.8%で、個別回答では「リフォーム資材の納期遅れ、納期時期の不明」(建物売買、千葉県)、「建材の納期が未定となり、新築物件の完成引渡し時期が未定となった。長引くと相当な影響がある」(土地売買、長崎県)、「ビルの衛生管理に気を付ける程度の影響はある」(不動産管理、東京都)が挙がったとのことです。
上記のようなことから、コロナショックが不動産ビジネスに与える影響は一時的には大きくなる可能性があります。
不動産オーナーにとって直結する問題として、特に、店舗・事務所の入居者からの賃料減額要請や退去の増加、それに伴う資産価値の低下などが危惧されますし、コロナ感染の終息に時間がかかるようですと、世界の経済活動にも大きな影響を与えることになります。2008年のリーマンショックの際は、アメリカのサブプライム住宅ローン問題に端を発する金融市場の混乱により、日本の不動産市場に、資金が回らなくなり、不動産相場の下落が生じました。その際、経済変動の影響を受けやすいのが、住宅系よりも、商業系・オフィス系の賃料であり、賃貸住宅系の収益不動産よりも、商業系・事務所系の収益不動産の価格の落ち込みが激しかったと言えます。
ただし、その当時、将来を見越して資金力・資金調達力ができた一部の企業や投資家が、値下がりした不動産を積極的に購入することができ、その後のアベノミクスによる市場回復によって、莫大なキャピタルゲインを得ることが出来たのも事実です。
今回のように地価上昇トレンドの潮目が変わるときは、不動産オーナーには、特に、情報収集力、判断力、行動力が大切になってくると思います。
バブル崩壊、リーマンショックの経験から、潮目が変わったときには、先手先手で対策を打つことの必要性を学ぶべきではないでしょうか?
まさに、「ピンチはチャンス」ということでもあるのです。
リーマンショック後の景気悪化の社会で、新たなビジネスが生まれたり、拡大したりしました。
例えば、企業のオフィス縮小が進んだ結果、会議室を自前で持たなくなる企業が増え、その結果、貸会議室ビジネスが大きく発展しました。
「ピンチはチャンス」であるという想いを持って、発想力を豊かにし、健康第一で、前向きにこの危機を乗り越えて行きたいものです。
星 龍一朗
リアル・スター・コラボレーション(株) 代表取締役
不動産投資のセカンドオピニオンとして活躍。
1967年生まれ 大手不動産流通会社、不動産投資アセットマネジメント会社などを経て独立。
主に個人向けに不動産投資、賃貸経営のアドバイスや講座・セミナーを通じて、資産形成をサポート。セカンドオピニオンとしてのコンサルティングを提供。
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