東京オリンピック後に、不動産マーケットがどうなるのか・・・ 以前から良く話題になっているテーマです。はたして不動産価格は下落するのか、それとも下落しないのか。
「暴落する!」という説もあれば、「暴落する根拠は全くない!」という説など、様々な説があるのが正直なところです。
では、そもそも不動産の価格決定要因は、一体、なんでしょうか?資本主義経済では、基本的には、「モノやサービス」の値段は、「需要と供給のバランス」で決定するというのが大原則です。買いたいという需要が多ければ価格は上がりますし、売りたいという供給が多ければ価格は下がります。
当然、不動産の価格も、この大原則が当てはまります。ただし、不動産の場合は、価格が大きいため、金融機関による「融資」環境が非常に大きく影響してきます。
つまり、「買いたい」という「潜在的需要」がいくら多くても、融資無しには買うことが出来なければ、「融資」環境が悪化すると、実際に買うことが可能な「実質的需要」が減少し、価格が下落します。
1990年以降のバブル崩壊のときも、2008年のリーマンショックのときも、いずれも、不動産に対する融資が大幅に減少したことにより、不動産マーケットの暴落が生じました。
2020年の東京オリンピック開催が決定したのが、2013(平成26年)年9月ですが、確かに、その位の時期から不動産マーケットは上昇傾向となりました。
以下は、地価公示価格の地価変動率推移ですが、その時期から一都三県を中心として上昇に転じていることが分かります。
また、首都圏の分譲マンション価格も上昇傾向になったことが以下のデータで見て取れます。
しかしこの上昇は、オリンピック開催決定という要因よりも、アベノミクスによる金融緩和の影響が大きいと言えるでしょう。
異次元の金融緩和、超低金利政策により、金融機関が不動産に対する融資を大幅に増やしたため、一般の会社員による不動産投資も活発になり、個人不動産投資家向けのマーケットが活況を呈しました。
並行して、海外投資家からの資金流入、インバウンド需要、オリンピックに伴う開発事業・インフラ再整備事業の増加と人手不足などによる建築費の高騰、相続税増税による相続税対策としてのアパート建築の増加など、様々な要因が重なって、大型案件、地方主要都市・インバウンド需要が強い観光地の不動産、分譲マンションなど、幅広い分野の不動産マーケットが値上がり傾向となりました。
これらの要因の中には東京オリンピック開催と関連が深いものもありますが、関連のないものもあります。
したがって、そもそも東京オリンピック開催前の不動産価格の上昇は、東京オリンピック開催が直接の要因となっている部分は限定的と言えるのではないでしょうか。
ここで過去、海外で夏季オリンピックが開催された都市のオリンピック開催前後の住宅価格に関するデータを見てみます。
これによると、ロンドン大会前の4大会においては、オリンピック後に、住宅価格が急落するという現象は見受けられません。
前回の東京オリンピック(1964年開催)のときの日本のような新興国や経済規模が小さい国の場合、オリンピックによる経済効果・不動産マーケットに与える影響は多大なものがあると考えられますが、現在の日本のような先進国、経済大国では、オリンピックによる建設特需等というのは不動産マーケット全体から見ると、その影響は限定的だと言えるでしょう。
さて、「東京オリンピック後の不動産マーケットはどうなる?」のかについてですが、一言でいいますと「多極化」が進み、下落するエリア・分野の不動産もあれば、上昇するエリア・分野の不動産もあるという複雑な状況になるのではないかと見ています。
以下は、プロの不動産投資プレイヤー(アセット・マネージャー、デベロッパー、保険会社、投資銀行、年金基金、不動産賃貸など)に対して2019年4月に実施された調査の結果です。
これによると、プロの不動産投資プレイヤーは現在のマーケットをピークであると考えていることが良く分かります。
不動産マーケットというのは循環しておりますので、上昇基調のときがあれば、下落基調のときもあります。その意味では、今後、更なる上昇というのは考えづらく、オリンピック開催の前年である本年2019年から、下落基調に入る可能性はあると言えます。
現時点で既に、資料4.金融庁による投資用不動産向け融資に関するアンケート調査でもわかるように、投資用不動産向け融資の実行額(銀行)は、2018年(H30)3月期の4.7兆円から9月期の1.9兆円に大幅に減少しており、この影響で、特に地方の一棟アパート・マンションの取引は減退し、価格も下落に転じています。
一方で、価格帯にすると、おおよそ5億円以上の都心部の投資用不動産に関しては、取引の減退、価格の下落といった声は、聞こえてきていません。
2019年以降、オリンピック後に起こる様々な事象の中で、不動産の需要と供給のバランスに影響を及ぼす可能性が高い要因は、以下のようなものが挙げられます。
需要<供給となり得る要因>
・オリンピック前の利益確定を狙った不動産売却
・消費税増税
・世界経済の減速懸念
・不動産向け融資審査厳格化に伴う貸出の減少
・オリンピックに伴う開発・建設事業の完了
・東京オリンピック選手村跡地でのマンション大量供給
・2022年の生産緑地問題
・国内人口の減少
など
供給<需要となる得る要因>
・金融緩和、低金利政策の継続
・2025年 大阪万博開催
・2027年 リニアモーターカー開通
・老朽化したインフラの再整備
・人手不足等による建築費の高値安定
・外国人労働者の増加(入管法改正)
・インバウンド需要の増加の継続
・世界的にみて、割安感のある日本の不動産への海外マネーの流入
など
【最上位のオフィス賃料水準の比較】資料7 | 【マンション/ハイエンドクラスの価格水準の比較】資料8 |
(出展)みずほ総合研究所:https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/urgency/report180710.pdf
以上を鑑みると、東京オリンピック後に、リーマンショック級の世界的な経済危機といった不可抗力な事態の発生を除けば、不動産マーケット全体が暴落に転ずることは考えにくく、緩やかな後退をするエリア・分野や、極地的な上昇をするエリア・分野、底堅く平行線をたどるエリア・分野など、かつてないほど多極化した不動産マーケットの状況を迎えるかもしれません。
そういった意味では、例えば、下落傾向にある地方の不動産資産を早めに売却して、底堅いマーケットを維持している東京都心部の不動産資産に組み換えておくなど、資産の組み換えを検討するターニングポイントを迎えているということが言えるでしょう。
<続編>2020年 東京オリンピック後の不動産マーケットはどうなる?(その2)
星 龍一朗
リアル・スター・コラボレーション(株) 代表取締役
不動産投資のセカンドオピニオンとして活躍。
1967年生まれ 大手不動産流通会社、不動産投資アセットマネジメント会社などを経て独立。
主に個人向けに不動産投資、賃貸経営のアドバイスや講座・セミナーを通じて、資産形成をサポート。セカンドオピニオンとしてのコンサルティングを提供。
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