不動産投資の成功は、購入から運用、そして売却までの一連のプロセスを如何に戦略的に行うかにかかっています。特に売却時の減価償却は、不動産投資の最終段階で避けては通れない重要な課題です。今回のコラムでは「不動産における減価償却」について以下のような3部構成で解説しています。
第1部 不動産における減価償却の重要性
第2部 中古不動産の減価償却
第3部 不動産の売却時における減価償却
第3部では、不動産の売却時における減価償却として減価償却費が譲渡所得に与える影響、不動産売却における税務上の注意点、さらに近年の節税対策に関する法改正について解説します。
不動産を売却する際、減価償却費が譲渡所得に与える影響は大きなものとなります。譲渡所得とは、不動産の売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額を指しますが、取得費には減価償却による控除が反映されます。具体的には、取得価格からこれまで計上された減価償却費が控除されるため実際の取得費が小さくなり、その結果、譲渡所得が増加します。
たとえば1,000万円で購入した建物のうち、累積で300万円の減価償却費を計上していた場合、売却時の取得費は1,000万円ではなく700万円とみなされます。そのため売却価格が1,200万円であれば、本来の譲渡所得は200万円(1,200万円 - 1,000万円)となるはずですが、減価償却後の取得費では譲渡所得は500万円(1,200万円 - 700万円)となります。結果的に譲渡所得が増加し、税負担が大きくなる可能性があります。
不動産を売却する際の税務上の注意点として、特に以下の点に留意する必要があります。
1.譲渡所得税の負担
前述の通り、減価償却により譲渡所得が増加することがあります。そのため売却前に予め譲渡所得税の負担を見積もり、資金繰りを考慮することが重要です。また不動産の所有期間が5年を超えると、譲渡所得に対する税率が下がるため、売却のタイミングも慎重に計画すべきです。
2.特例措置の活用
たとえば、居住用財産を売却する際には3,000万円の特別控除が適用される場合があります。また一定の要件を満たす場合には、譲渡所得税が軽減される制度も存在します。これらの特例を最大限に活用するためには、売却前に税理士や不動産専門家と相談し、適切な手続きを行うことが重要です。
3.消費税の扱い
不動産売却に関しては、居住用物件の場合は消費税がかからない一方で、事業用物件の場合は消費税の扱いが生じることがあります。売却する不動産の用途に応じた適切な税務処理を行うことが必要です。
近年、不動産に関する税制は大きく変動しています。特に海外不動産を活用した過度な節税対策が問題視され、これに対する法改正が行われました。以前は海外不動産の減価償却を利用した節税対策が広く行われていましたが、このような対策は税収減少や不公平感を引き起こすとして税制上の制限が設けられることとなりました。
<改正前の問題点>
過去には海外不動産を購入し、国内の高額所得者が減価償却費を利用して所得を大幅に減少させる手法が一般的でした。特に海外不動産は国内物件に比べて減価償却が迅速に進むことが多いため、節税効果が非常に高かったのです。しかし、これにより本来の税負担が大きく軽減されるケースが続出し、税制の不公平が浮き彫りになりました。
<改正後の影響>
2020年の税制改正では、個人の所得において海外不動産に関する減価償却の適用が制限されました。これにより高額所得者が海外不動産を利用して過度な節税を行うことが難しくなり、国内外の不動産に関する税制の公平性が高まりました。この改正は主に個人に影響を与えていますが、法人が保有する海外不動産には引き続き減価償却が適用されるため、法人においては一定のメリットが残されています。
<個人と法人への影響>
個人においては、今回の改正により海外不動産を利用した節税策はほぼ封じられました。そのため国内不動産を中心とした資産運用にシフトするか、他の節税手段を模索する必要があります。一方で法人の場合は、海外不動産を活用した減価償却が引き続き可能なため、法人を設立して不動産投資を行うケースが増加する可能性があります。ただし法人であっても税務調査のリスクが増大するため、適切な会計処理と税務対応が不可欠です。
不動産投資における減価償却の取り扱いは、購入から運用、そして売却に至るまでの全過程にわたって重要な役割を果たします。特に売却時には、減価償却が譲渡所得に与える影響をしっかりと理解し、適切な税務対策を講じることが求められます。加えて、近年の税制改正に伴う変化にも注意を払い、国内外の不動産に関する税務戦略を見直す必要があります。
これらを踏まえたうえで、専門家のアドバイスを受けながら長期的な視点で資産運用を計画することが、不動産投資における成功のカギとなるでしょう。
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