現物不動産売買と信託受益権売買の違いについてよくわからないという人も多いのではないでしょうか。信託受益権について以下の3部にわたり主要ポイントを読み解きます。
第1部 現物不動産売買との違い
第2部 不動産ファンドの台頭と信託受益権売買
第3部 信託受益権の活用事例
第2部の今回は、不動産ファンドの台頭と信託受益権売買について解説していきます。
1990年初頭のバブル経済崩壊により、不動産価格の急激な下落と不良債権の増加が市場を混乱させ、日本国内の不動産市場は長期間に渡り流動性が大幅に低下していました。そのため市場を活性化し、不動産の流動性を向上させる必要がありました。
一方で低金利環境が続く中、より高い利回りを求める個人投資家が不動産投資への関心を高めたものの、不動産投資には数千万、数億円といった高額の初期投資が必要であったことから、参入障壁が非常に高い状況にありました。
そこで政府は、多くの投資家が少額からでも投資できる仕組みを作る必要があったため、信託受益権を活用した仕組み(ファンド)を作り、不動産特定事業法を整備し1994年に施行。2001年には、不動産投資信託であるJ-REIT(Japan Real Estate Investment Trust)が創設されました。
信託受益権が普及したもう1つの要因は、国際会計基準(IFRS)の導入です。2005年にEUがIFRSの採用を決定したことにより、日本国内の上場企業においてもIFRSの導入機運が高まり、企業が保有する不動産(CRE)においても、従前の簿価に基づく評価ではなく、時価評価が義務付けられるようになりました。加えて国際社会においてはROA(総資産利益率)などから企業の収益性等を判断されるようになり、これらの経営効率化の観点から遊休資産の処分をはじめ、企業が自ら所有する本社ビルをはじめとするオフィスビルなどを売却、それによって得た資金を本業に投下することで経営の効率化を求める動きが高まりました。
この際に国内の多くの企業がCREの売却へと舵を切ることで、大規模・中規模のオフィスビルや商業施設、または企業が所有するレジデンスを含む賃貸用不動産が、不動産マーケットに溢れていきました。従来通りのような状況では、数億、数十億といった価格帯の不動産に個人投資家が手を出すことが困難でしたが、ここで活躍したのが多くの投資家を抱えた不動産ファンドでした。信託受益権化により、多くの個人投資家が投資することができる環境が整備されたことで、不動産ファンドが買い手となり不動産市況は活況となりました。
写真:東京オペラシティ
では信託受益権を活用されている不動産はどのようなものがあるのでしょうか。前述の通り、J-REITの各投資法人で運用されている大半は信託受益権化された不動産です。東京オペラシティ、二子玉川ライズなどの首都圏不動産や、星野リゾートグループが運営するホテル、温浴施設で知られる大江戸温泉物語などの系列ホテルも信託受益権化されたものとなります。数億を超え、数十億、数百億、数千億という大規模な不動産の取引は、信託受益権売買が活用されています。
写真:星野リゾートトマム
写真:大江戸物語
昨今では、「信託受益権」は相続対策の1つとして、煩わしい不動産の管理業務から相続人が解放されること、加えて、不動産経営の専門家によって運営されることにより安定した不動産運用が可能となり不動産を相続する相続人にとってのメリットが大きいことから、取り入れられるようになりました。
そういったニーズからも信託受益権化された不動産の流通量が増加、信託受益権売買の取扱いも普及しつつあります。一般社団法人信託協会が公表する資産流動化方信託における不動産信託取引残高は、2001年9月の4.1兆円から2023年の9月時点では63.1兆円と、15.3倍になっています。
国土交通省が公表する不動産証券化の実態調査においても、取得段階においては平成9年の210億円から令和4年の1兆8140億円と86倍、取引件数としては平成20年162件から令和4年で1,097件の6.7倍といずれも大きく増加しており、信託受益権売買の取引数は大きく伸びています。
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