2024年は経済や不動産市場に影響を与える政治イベントが目白押しです。2024年不動産市場における政治リスクについて以下の3部にわたり主要ポイントを読み解きます。
第1部 新興国・欧州選挙
第2部 米中対立・ウクライナ・中東情勢
第3部 国内選挙と米大統領選
第3部の今回は、国内選挙と米大統領選について解説していきます。
永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
9月に自民党総裁選が予定されている。当初はその前の夏頃に解散総選挙が予想されていたが、支持率低迷や政治献金問題などから不透明になっている。こうしたことから、年内の首相交代を警戒する向きもある。ただ、仮に総選挙があったとしても野党の支持率も上がっていないことから、政権交代の可能性は低い。また、自民党内からも有権者からも支持率が高い岸田首相に代わりうる候補者も不在である。
このため、総選挙の有無にかかわらず岸田首相続投か総選挙見送りでの首相交代なら、現政権の経済政策が引き継がれ、株高、金利上昇、円高圧力となろう。ただ、解散総選挙を実施して与党が議席を減らして首相交代となれば、政権が不安定化し、経済政策にも不透明感が漂うため、株安、金利低下、円安の可能性もあろう。
今年の政治イベントで最も注目度が高いのは、何といっても11月5日の米大統領選挙だろう。同時に下院の全議席と上院100議席のうち33議席を争う議会選挙も行われる。
今回の大統領選はバイデン大統領が再選を目指す選挙となるため、在任中の実績が結果を大きく左右しよう。なお、第二次大戦後に現職が敗れた大統領選は4回(76年フォード(共和)、80年カーター(民主)、92年ブッシュ(共和)、20年トランプ(共和))あるが、いずれも景気・雇用悪化、高インフレなど経済的要素と政治不信や失政といった政治要素が敗因となっている。その点、今年の米国経済はソフトランディングが市場のコンセンサスとなっており、仮にその通りになればバイデン氏に追い風となろうが、リセッションや金融危機などが起きれば逆風となる。
また今回の特徴として、共和党の候補者がトランプ前大統領になる可能性が高く、仮にそうなれば前職と現職が争う異例の大統領選となる。となると、トランプ前大統領の実績も問われることになろう。株式市場では減税の期待が強いが、一方で刑事事件の裁判中であること等をネガティブに見る向きもある。
となれば、こうしたトランプ氏以外の新人候補が出ることになれば、過去の実績は問われないため、バイデン氏はより苦戦を強いられる可能性があることには注意が必要だろう。
このケースはバイデン再選というよりも、トランプ拒否の様相が強くなるケースと想定される。このため、議会選挙では上下院民主党になる可能性は低いだろう。実際、第二次大戦後に2期目の再選を決めた政権は全てねじれとなっている。
こうなれば、足元のバイデン大統領ねじれ議会の状況と変わらないため、経済や市場への影響は限定的になると予想される。裏を返せば、ねじれ議会後に何度も問題になっている債務上限問題や政府閉鎖に対するリスク回避の動きが度々市場の波乱材料となることには注意が必要だろう。
こうした中で最も警戒すべきは、25年末にトランプ減税の一環で実施された所得減税が期限を迎えることである。というのも、バイデン大統領は高所得者優遇を批判しているため、延長の可能性が低いからである。となれば、期限切れ以降は税負担が増加することになり、26年以降の米経済の足かせになる可能性があることには注意が必要だろう。
トランプ前大統領が勝利した場合は、上下両院で共和党が半数を獲得するか否かで影響が異なるだろう。
まず、トランプ前大統領が勝利して上下院で共和党が過半数を獲得すれば、所得減税の延長や法人税率の再引き下げなど減税期待が強まるだろう。しかし、議会がねじれればその期待は強まらないだろう。
一方、トランプ氏は大統領在任中にFRBの独立性を軽視して金融緩和を要請したことから、議会のねじれの有無に関係なくこうした混乱が市場で生じることが警戒されよう。特に、現パウエルFRB議長やバー副議長は26年に任期を迎えるが、恐らくトランプ大統領は再任を認めないため、次のFRB執行部に対して不確実性が高まることになろう。
そのほかにも、保護貿易がさらに強まり、米中貿易摩擦がより深刻化することや、移民の制限により労働需給がひっ迫することで、インフレ再燃のリスクがあることには注意が必要だろう。
また、外交面ではウクライナ支援の関与を下げる可能性がある。仮にそうなることでウクライナ紛争がロシア勝利することになれば、欧州を中心に更なる地政学リスクが高まることで、原油価格に影響が及ぶことにも注意が必要だろう。
以上をまとめると、バイデン再選でねじれ議会となれば、現状維持で市場の反応は限定的となろう。しかし、バイデン再選で民主党上下院過半数となると、民主党の歳出増や増税が議会を通りやすくなるため、株安・金利低下・ドル高圧力となろう。
一方、トランプ勝利で共和党上下院過半数となれば、短期的には減税期待により株高・金利上昇・ドル安反応が予想されるが、長い目で見れば、FRBへの圧力や米中摩擦激化、移民制限やウクライナ紛争・中東への関与低下などにより株安・金利上昇・ドル安の可能性があることには注意が必要だろう。また、トランプ勝利でねじれ議会となれば、短期的な減税期待もなくなることで、株安・金利低下・ドル高の可能性が高まろう。
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