2024/5/17 市況

2024年の不動産市場はどうなる?|第2部 米中対立・ウクライナ・中東情勢

2024年は経済や不動産市場に影響を与える政治イベントが目白押しです。2024年不動産市場における政治リスクについて以下の3部にわたり主要ポイントを読み解きます。

第1部 新興国・欧州選挙
第2部 米中対立・ウクライナ・中東情勢
第3部 国内選挙と米大統領選

第2部の今回は、米中対立・ウクライナ・中東情勢について解説していきます。

永濱 利廣

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

米中対立

 米中対立最大の懸案事項は台湾問題となろう。最悪の事態としては、中国による台湾への軍事侵攻となる。しかし、米軍の介入や西側諸国による経済制裁を勘案すれば、短期的に中国が実行に移す可能性は低いだろう。

 こうした中、1月に台湾総統選が行われ、対中強硬派である民進党の頼氏が勝利した。これにより、中国の目論む政治統合は一旦遠のいたと言えよう。経済面でも中台間の進化は遠のき、台湾近海での中国軍の演習が続くことになろう。そうなれば、米軍も台湾への軍事派遣が続くことから、偶発的な事故などが起これば、軍事衝突の可能性も無視できない。

 ただ、台湾議会選では立法院で民進党が少数与党となったため、そうした事態にエスカレートするリスクはやや低下することになった。また、昨年11月に米中首脳会談が行われたことも米中の地政学リスク低下に寄与しよう。そもそも中国は国内経済が最重要課題となっており、外交面での摩擦は回避したいだろう。また米国もすでにウクライナやガザの紛争にかかわっているため、更なる関与を増やしたくないという意向も働きやすいだろう。

 とはいえ、バイデン政権は11月に大統領選を控えていることから、中国に譲歩するスタンスは取れないだろう。このため、トランプ政権時に発動となった対中制裁関税の軟化の可能性は低い。むしろ、重要物資を中心に輸出や投資規制、技術移転を阻止すべく中国抜きのサプライチェーン再構築を強化することが予想される。そしてこうした動きは、製造業を中心とした中国株の押し下げ要因となろう。

 一方の中国も、輸出規制強化前に重要物資関連資本財の輸入を強化する一方で、軍事関連を中心に国産化や独自技術の開発を進め、重要物資関連素材の輸出規制続けることが予想される。そしてこうした動きは西側諸国の製造業関連株価を抑制する要因となろう。

ウクライナ紛争

 ウクライナ紛争は長期化しており、消耗戦となっている。こうした中、ロシアは弾薬のみならず兵士不足も指摘されている。背景には、武器の調達元となっている北朝鮮やイランも西側諸国から経済制裁を受けていることがある。一方のウクライナ側も、兵士が長期間動員されていることで国民の不満が高まっている。加えて弾薬の供給元となっている西側諸国でも、米国で支援の予算確保が不透明になっており、EUでも一部の親ロ国が支援に反対のスタンスを取っている。このように、いずれも戦力確保が不安定なことで紛争の膠着状態が続いており、マーケットでもウクライナ紛争に対する注目が薄れている。

 ただ、依然として西側諸国のウクライナに対する支援が縮小することで、ロシアが優位に立つリスクがあることには注意が必要だろう。こうなると、西側諸国の支援が逆に積極的になり、市場の地政学リスクに対する緊張が高まる可能性がある。そして、ロシアが劣勢に立つような事態になれば、核兵器使用のリスクもある。となれば、1945年以来の核使用ということになり、マーケットは大きなリスクオフの動きになることが想定される。

 そうなれば、西側諸国の対ロ制裁がさらに強化される可能性がある。そしてロシア産の化石燃料の供給がより細ることになれば、ロシア資源の依存度が高い国のスタグフレーションや世界的な化石燃料高を引き起こすことになろう。

 以上を踏まえれば、ウクライナ紛争が現状のままの長期化であれば、マーケットへの影響は限定的だが、ロシア支援国への制裁が強まれば、支援国を中心に株・債券・通貨に下落圧力がかかることになろう。また、ロシアの核攻撃となれば、世界的な株安・ユーロ安となり、その後の制裁強化観測の強まりで商品市況も上昇しよう。そして、特にロシアへの資源依存度が高い中国・インドで株・債券・通貨に下落圧力がかかることが想定される。

 一方でウクライナが勝利すれば、世界的な株高、ユーロ高となり、西側諸国の経済制裁解除観測が高まれば、商品市況価格も低下圧力がかかることになろう。

中東情勢

  昨年10月から続いているガザ紛争がマーケットに及ぼす影響は、今のところ限定的となっている。しかし今後、軍事的緊張が高まるようなことになれば、地政学リスクの高まりで原油高となるリスクがある。

 特に欧米が参戦することになれば、マーケットではリスクオフとなり、株・金利低下を通じて円安や金価格上昇が生じる可能性がある。過去を振り返っても、1980年代のイランイラク戦争時や、90年代初頭の湾岸戦争、2003年のイラク戦争と枚挙にいとまがない。

 ただ、イスラエル軍がハマスを圧倒している間はその可能性が低いだろう。特にイスラエルは核保有国であることからしても、他の中東諸国がハマス側として参戦する可能性も低い。ただ、トルコをはじめハマスに協力的な国は欧米の経済制裁に伴う資本流出のリスクがあることには注意が必要だ。

 なお、ガザ地区は東地中海沿岸と主要産油地域から遠く、スエズ運河からも離れているため、船舶襲撃リスクを除けば、原油市需要への影響は限定的であろう。

 以上をまとめれば、ガザ紛争がマーケットに及ぼす影響は限定的だが、紛争継続中はハマス支援で欧米の制裁リスクがある中東諸国で株・債券・通貨安のリスクがあろう。そして紛争が終結すれば、中東諸国では株・債券・通貨高の可能性がある。


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